肥大型心筋症は、心臓の筋肉を作るたんぱく質の遺伝的な異常が原因でおこる心筋疾患です。
一般に左心室全体の心筋の肥大が進行し、特に心臓の右心室と左心室を隔てる壁「心室中隔」の心筋が厚くなり左心室に突出します。左心室へのせり出しが小さい場合は、自覚症状はありませんが、大動脈の近くまで広がった場合は、血液の通り道が狭められ(狭窄)、収縮時の負担が大きくなり、呼吸困難、胸痛、全身倦怠感が起きたりします。場合に依っては、不整脈が原因での突然死の危険性もはらんでいます。
これを防ぐため、肥大した中隔の心筋の肥大を縮め、血液の流れを良くするために行う治療が、経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)です。
1
治療は、局所麻酔や鎮痛薬を使い、開胸はせずに、太ももの付け根 の動脈から直径1.5~2mmのカテーテルを入れて行います。
2
大動脈から、心筋を取り巻く冠動脈を経て、心臓内部の心室中隔に ある末端の細い血管まで到達させます。ここで、カテーテルの先から、ごく微量の純エタノールを肥大した心室中隔に局所的に流すと、その心筋部分はエタノールによって、一瞬のうちに凝固壊死します。
3
壊死した心筋は活動をしなくなります。時間が経過すると、肥大した 中隔も次第に薄くなり、血液が流れやすくなり、心臓の負担が軽くなります。
心臓の右心室と左心室を隔てる壁「心室中隔」の心筋が厚くなり、左室流出路の狭窄を起こします。
その左心室圧と大動脈圧の差である圧較差の数値が、高くなるとより血液が通りにくく重症となり、30mmHg以上の場合、閉塞性肥大型心筋症と判断されます。
PTSMA治療では、心筋の肥大を縮めることで、血液の流れを良くなり、圧較差を減少することが可能です。実際当院で治療を行った68歳の男性の例では、治療前の55mmHgあった圧較差が、治療後3mmHgに減少しました。
体への負担が少ない |
治療の時間・ |
再治療が容易 |
---|---|---|
胸を全く切開しない、または大きく切開しなくて済み、患者さんの体への負担が少ないのが特徴です。 |
PTSMAの治療は2-3時間程度で終了し、その後約14日間程度の入院期間で治療が完了します。退院後はすぐに元の生活に戻る事が出来ます。 |
病気が再発した場合でも再度治療が有効な場合があります。 |
閉塞性肥大型心筋症の治療は、心筋の過剰な収縮を抑える薬物療法(薬物療法:β遮断薬、カルシウム拮抗薬、抗不整脈薬など)がまずは基本となります。しかし、薬物療法の効果がでない人も、約2割程度いらして、その方々は厚くなった心筋中隔部分を切除する外科的手術(中隔心筋切開切除術)や、人工心肺を用いながら病気の僧帽弁を切除し、新しい人工弁に取り換える手術(僧帽弁置換術)を選択していました。このような外科手術と比較し、より患者さんの身体的負担が少なく、同等の効果が期待できる治療方法として、本治療が位置付けられています。(*場合によってはペースメーカーによる治療も選択します。)
経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)は、上記の場合に適応されます。
治療は、カテーテル治療専門医(主に循環器内科医)、心臓血管外科医、麻酔科医、心臓画像診断専門医やその他コメディカル、事務職員などが、それぞれの専門分野の知識や技術を持ち寄って、患者さんにとって最適と思われる治療法を選択し、治療を行う事で初めて可能になります。治療を担うグループを「ハートチーム」と呼びます。当院でも総勢30名からなる専門のハートチーム体制を整えています。
種々の構造的心疾患に対するカテーテル治療のなかでもPTSMAは比較的歴史の古いものです。対象となる症例はさほど多くはありませんが、当院ではこの治療が日本に導入された直後から継続して行っております。症状が劇的に改善する症例も数多く経験しています。お薬の効果が不十分であると感じておられる患者さんがおられましたら、是非ご相談ください。
閉塞性肥大型心筋症と診断されました。
希望すれば受けることが出来ますか?
閉塞性肥大型心筋症の患者さん全てが経皮的中隔心筋焼灼術(PTSMA)の適用者というわけではありませんので、本治療の必要性につきましては、当院の専門の医療チームで判断致します。
治療の相談をしたい場合はどうしたらよいですか?
当院では、本治療に関するご質問・お問い合わせにつきましては、まずは患者さんのかかりつけの医療機関にご相談していただき、それから当院 医療福祉相談室および地域医療連携室でご連絡をお受けし、診療科担当医師におつなぎするシステムをとっております。お問い合わせの内容によっては当日お答えできない場合もございますので、何卒ご了承願います。
ご連絡先:医療福祉相談室(患者さん)、地域医療連携室(医療機関の方)
治療費はどれくらいかかりますか?
例) PTSMA治療 約12日の入院の場合(健康保険を利用。入院期間が月をまたがない場合。)
年齢 |
高額療養費制度を利用しない場合 |
高額療養費制度を利用する場合 |
---|---|---|
70歳未満 | 約400,000円(3割負担) | 下記表を参照 |
70歳以上 | 57,600円(所得により異なる場合があります。) | 57,600円(所得により異なる場合があります。) |
※ 食事代、個室代は別途必要になります。
70歳未満の方で高額療養費制度を利用した場合
所得区分 |
高額療養費制度を利用する場合 |
---|---|
年収約1,160万円〜の方 | 約260,000円 |
年収約770〜約1,160万円の方 | 約180,000円 |
年収約370〜約770万円の方 | 約90,000円 |
〜年収約370万円の方 | 57,600円 |
住民税非課税の方 | 35,400円 |
※費用負担は各制度の変更により、上記と異なる場合がございます。高額療養費制度についてはこちら(食事代、個室代は別途必要になります)
日常生活ではどの程度の活動をしたらいいでしょうか?
(運動の制限について)
脱水、いきみを避けて生活してください(便秘に注意してください)。
治療前と治療後ではどのような変化を実感できますか?
突然死などの心配なく、息切れなどはるかに楽になり、
術前より安心して日常生活を送ることが出来ます。
© SAISEIKAI KUMAMOTO HOSPITAL
ALL RIGHTS RESERVED.