三尖弁逆流症への
TriClip トライクリップ 治療

TriClip治療は、カテーテルを用いて三尖弁をクリップで留め、
逆流を軽減する低侵襲な治療法です。
胸を大きく切開することなく行えるため、身体への負担が少なく、
これまで手術が難しかった患者さんにも新たな選択肢となっています。

クリップのイメージ

三尖弁逆流症(TR)とは?

Tricuspid Regurgitation

心臓の右側にある「三尖弁」が適切に閉じず、血液が逆流してしまう病気です。
これまで三尖弁は、左心系の疾患に隠れて注目されにくい部位でしたが、
重症化すると心不全や肝・腎機能障害を招き、予後を悪化させることがわかっています。

こんな症状はありませんか?

  • 下腿浮腫・体重増加
    体液貯留のサイン。靴下の跡が深くなる。
  • 腹部膨満・食欲低下
    腹水や肝うっ血による不快感。
  • 頸静脈怒張・肝拍動
    右心系のうっ血を示唆。
  • 易疲労・息切れ
    右心不全・肺高血圧の進行で増悪。
  • 身体所見
    胸骨左縁の汎収縮期雑音、肝静脈の収縮期逆流など。

治療について

About treatment
イメージ:カテーテル

TriClip(トライクリップ)は、三尖弁逆流症に対する国内初の低侵襲カテーテル治療デバイスです。

(2026年5月時点)

この治療では、脚の付け根にある静脈からカテーテルを挿入し、
三尖弁の弁尖(弁のひだ)を専用のクリップで留めることで、
血液の逆流を物理的に減少させます。

メリット

「低侵襲性」

従来の外科手術とは異なり、胸を大きく
切り開く必要がなく、心臓を止める必要もありません。

体への負担が少ないため、ご高齢の方や、
他の持病(併存症)のためにこれまで手術が
困難とされていた患者さんでも、
安全に治療を受けられる可能性があります。

イメージ:クリップ

治療の流れ

Flow
  1. 1

    全身麻酔下で、脚の付け根にある静脈からカテーテルを挿入し、心臓内の三尖弁まで進めます。

    イメージ:カテーテル挿入の様子
  2. 2

    カテーテルの先端にある専用のクリップ(TriClip)を使い、逆流の原因となっている三尖弁の弁尖(弁のひだ)を挟み込みます。これにより、弁の閉じ合わなかった隙間を物理的に小さくします。

    イメージ:クリップで弁を留める様子
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    逆流の改善が確認できたら、クリップを切り離して心臓内に留置します。クリップは体内に残りますが、心臓の一部として馴染んでいきます。その後、カテーテルを慎重に抜き取ります。

    イメージ:治療後の様子

治療動画

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対象(適応)者

Target patient

以下の条件を総合的に判断して検討いたします。

  • 重症度

    3度(Severe)以上の重症三尖弁逆流症がある方。

  • 症状

    適切な薬物療法(利尿剤など)を継続しているにもかかわらず、息切れ、全身の浮腫、腹水などの心不全症状がある方。

  • 外科リスク

    高齢、心臓手術の既往、あるいは肝機能・腎機能障害などの併存症により、通常の外科手術(開胸手術)がハイリスクまたは最適ではないと判断される方。

  • 解剖学的条件

    カテーテルによるクリップ留置が可能な弁の形態(弁尖の長さや欠損の状態など)であり、大腿静脈からのアプローチが可能であること。

治療体制・設備

Treatment system/equipment

当院は、僧帽弁に対するカテーテル治療(MitraClipやPASCAL)において、全国でも有数の豊富な実績を築いてまいりました。
この高度な経験を基盤とし、三尖弁治療においても質の高い医療を提供いたします。

写真:多職種ハートチーム

当院の強みは、各分野のスペシャリストが集結した
「多職種ハートチーム」です。

構造的心疾患治療、超音波専門医、心不全の診療に特化した医師(循環器内科医師)、
心臓血管外科医、麻酔科医,放射線技師や看護師などが一丸となり、
それぞれの専門性を発揮する機動的なチーム体制を構築しています。
診断から治療、術後のリハビリに至るまで、多角的な視点で患者さん一人ひとりをサポートします。

写真:ハイブリッド手術室

設備

ハイブリッド手術室

高度なカテーテル治療を安全に遂行するため、最新の医療設備を完備しています。手術は、常に最新の3Dエコー機器を用いた精密なリアルタイムガイダンスのもとで行われ、ミリ単位での緻密な操作を可能にしています。

治療場所となるハイブリッド手術室は、内科カテーテル治療と外科手術の両方に対応できる高度な機能を備えています。また、常に安全性を最優先し、合併症リスクの事前予測や緊急時の対応フローを徹底して整備しています。クリニカルパスに基づいた標準化されたプロセスにより、すべての患者さんに安全で安心な治療を提供できる環境を整えています。

医師メッセージ・医師紹介

Doctor's Message
  • 写真:循環器内科上席部長 坂本 知浩
    循環器内科上席部長
    坂本 知浩 / Tomohiro Sakamoto

    最後のピースを埋める

    1976年、私共の済生会熊本病院心臓血管センターは診療を開始しました。現在、急性心筋梗塞の緊急治療として広く行われている経皮的冠動脈インターベンション(PCI)は、当科誕生の翌年、1977年にヨーロッパで開始されました。すなわち当センターは、心臓のカテーテル治療の進歩と共に歩んで来たと言う事が出来ます。

    心臓のカテーテル治療はその後、不整脈や先天性心疾患、弁膜症の領域にまで拡がって参りました。大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療(TAVI)が開始になったのが2013年、その後、僧帽弁逆流に対する治療(M-TEER)が2018年、肺動脈弁疾患に対する治療(TPVI)が2021年に国内導入されました。このように心臓に存在する4つの弁のうち3つがカテーテルで治療可能となりました。

    メッセージをさらに見る

    心臓のカテーテル治療はその後、不整脈や先天性心疾患、弁膜症の領域にまで拡がって参りました。大動脈弁狭窄症に対するカテーテル治療(TAVI)が開始になったのが2013年、その後、僧帽弁逆流に対する治療(M-TEER)が2018年、肺動脈弁疾患に対する治療(TPVI)が2021年に国内導入されました。このように心臓に存在する4つの弁のうち3つがカテーテルで治療可能となりました。

  • 写真:心臓血管外科部長 押富 隆
    心臓血管外科部長
    押富 隆 / Takashi Oshitomi

    三尖弁逆流症は“様子見でよい病気”ではありません ― 早期評価と新たな治療選択肢

    三尖弁はこれまで「忘れられた弁(forgotten valve)」と呼ばれてきました。しかし、決して見過ごされていたわけではありません。 その背景には、三尖弁逆流が利尿剤により浮腫などの症状を比較的容易に改善できること、そして右心機能を含めた評価が困難であったことが挙げられます。実際、右心系は容量負荷に強く影響されるため評価の再現性が低く、現在でも単一のゴールドスタンダードは確立されていません。 また、従来の画像診断では三尖弁の詳細な解剖評価が難しいという制約もありました。しかし近年、3D心エコーなど画像技術の進歩により、右心系および三尖弁の評価は大きく向上し、病態理解は飛躍的に進展しています。

    メッセージをさらに見る

    三尖弁逆流は初期には無症状、あるいは利尿剤により症状が軽減するため経過観察となることが多い疾患です。しかし利尿剤はうっ血を改善する対症療法であり、逆流そのものの進行を抑制するものではありません。実際には、逆流は進行と軽快を繰り返しながら徐々に悪化し、右心室拡大、右心不全、さらにうっ血肝や腎機能障害へと進展していきます。 進行した段階では、肝・腎機能障害や血小板減少を伴い、外科治療のリスクは高く、治療成績も不良となることが知られています。一見、急激に生命に関わる疾患ではありませんが、緩徐に全身状態を悪化させ、最終的には両心不全に至る進行性疾患です。

    当科では2000年以降、三尖弁逆流に対する外科治療に積極的に取り組んできました。その経験から、利尿剤増量を要する前の段階での早期介入が予後改善に極めて重要であると考えています。実際、近年では早期に介入することで治療成績は大きく改善しています。

    さらに現在は、外科手術に加え、低侵襲なカテーテル治療(TriClipなど)も選択肢として利用可能となり、患者の状態に応じた個別化治療が可能となっています。

    三尖弁逆流は「症状が軽快するから安心」という疾患ではありません。 利尿剤の増量が必要となる前のタイミングで評価・介入を検討することが、長期予後の改善につながります。

    診断や治療方針でお悩みの際には、ぜひご相談ください。

  • 循環器内科副部長
    兒玉 和久 / Kazuhisa Kodama
  • 循環器内科
    山田 雅大 / Masahiro Yamada
  • 循環器内科
    前田 美歌 / Mika Maeda
  • 循環器内科医長
    神波 裕 / Yutaka Kounami
  • 循環器内科医長
    堀尾 英治 / Eiji Horio
  • 循環器内科
    佐藤 智英 / Tomohide Sato

よくあるご質問

Q&A

患者さん・ご家族から多い質問

q 治療にはどのくらいの時間がかかりますか?
a

手技自体の時間は症例によりますが、数時間程度です。全身麻酔下で行い、術直後から一般病棟で経過を観察します。

q 治療にはどのようなリスク・副作用がありますか?
a

TriClip治療は、胸を大きく切り開かない低侵襲な治療ですが、心臓内でクリップを操作するため、デバイスが弁からはずれたり弁の組織を傷つけたりするリスクのほか、手技中や術後に不整脈、血圧低下、穿刺部の出血や感染、あるいは既に挿入されているペースメーカーリードとの干渉が起こる可能性がありますが、当院では多職種専門チーム「Team T-TEER」が最新の3Dエコー等を用いて精密な操作を行い、術前後の厳重な管理を含めたクリニカルパスに沿って安全性を最優先した体制で治療に臨んでいます。

q 入院期間はどのくらいですか?
a

標準的なケースでは、手術の数日前に入院し、術後は1週間程度での退院を目指します。当院では専用の「クリニカルパス(治療計画表)」に沿って、早期の歩行開始やリハビリテーションを進めていきます。※患者さんの病態によって延長します。

q 高齢ですが治療を受けられますか?
a

はい、可能です。TriClipは胸を切り開かない低侵襲な治療であるため、これまで体力的・年齢的に外科手術が難しいとされていたご高齢の方や、持病をお持ちの方にとって非常に有効な選択肢となります。

q すでにペースメーカーが入っていますが、治療は可能ですか?
a

ペースメーカーのリード(線)が三尖弁を通過している場合でも、治療ができる可能性があります。事前にCT検査やエコー検査でリードと弁の位置関係を詳しく評価し、安全に治療が行えるか判断いたします。

q 治療費用は?
a

70歳未満

  • 高額療養費制度を利用しない場合

    約100万円(3割負担)

  • 高額療養費制度を利用する場合
    年収約1,160万円~の方 約30万円
    年収約770~約1,160万円の方 約20万円
    年収約370~約770万円の方 約15万円
    ~年収約370万円の方 57,600円
    住民税非課税の方 35,400円

70歳以上

  • 高額療養費制度を利用しない場合

    一般

  • 高額療養費制度を利用する場合

    57,600円(所得により異なる場合があります)

高額療養費制度についてはこちら(食事代、個室代は別途必要になります)

ご紹介元の先生から多い質問

q どのようなタイミングで紹介・相談すればよいですか?
a

重症(3度以上)の三尖弁逆流があり、利尿薬等の薬物療法に限らず息切れや浮腫などの心不全症状が改善しない場合は、ぜひ一度ご相談ください。うっ血による臓器障害を発症する前の段階での心不全による再入院を繰り返す前の段階での評価が推奨されます。

q 治療費は保険適用されますか?
a

本治療は2026年3月に保険適用となっています。
自己負担額は患者さんの保険種別や所得区分等により異なります。詳しくは診察時にご説明いたします。

q 術後のフォローアップはどうなりますか?
a

退院後は、ご紹介元の先生と連携しながら経過を観察させていただきます。当院では定期的な心エコー検査による逆流の評価や、心不全の再入院予防に向けた指導を継続して行います。