低侵襲治療

心拍動下冠動脈バイパス術

心臓表面にある心臓の筋肉(心筋)に血液を流す「冠動脈」とよばれる血管の動脈硬化が進行し、血管が細く狭くなると、その先の心筋細胞に十分な血液が供給できなくなります。このように、心筋細胞が一時的に血液不足に陥った状態(虚血)、または虚血による細胞ダメージを受ける病気を冠動脈疾患と呼びます。

その中でも、急性冠症候群は、冠動脈壁内にプラークというカスが貯まり、それが血管内の出来物のように急激に大きくなると冠動脈が狭くなり、またプラークが破裂したり、その部分に血栓という血の塊がつくと血管を閉塞させ、安静にしていても冷や汗を伴うほどの強い胸痛や胸の圧迫感を感じ、15分以上持続、または軽減増悪を繰り返し、症状の改善が無い状態になります。この場合は、心臓の細胞が壊死を起こしつつあり(急性心筋梗塞)、重篤な状態に陥る可能性が高いため、治療を急ぎます。

治療方法は患者さんの状態により異なりますが、非常に病変が複雑であったり、重症であったり、カテーテル手術を繰り返す必要がある患者さんは、冠動脈バイパス術が必要と判断されます。

心拍動下冠動脈バイパス術のイメージ図1

冠動脈バイパス手術は、冠動脈が狭くなって流れが悪くなった部分や、つまってしまった冠動脈の先に、患者さん自身の身体から血管を採取して、新たな血液の通路を作成する手術です。まだ、心筋梗塞を生じていないか、まだ生き残った心筋がある場合その残っている心筋を確保することがバイパス手術の目的です。

心拍動下冠動脈バイパス術のイメージ図2

バイパスに使用する血管は患者さんの身体から採取しますが、採取した血管の役割は他の血管が発達するので大きく問題はありません。
心拍動下の冠動脈バイパス手術は、心臓を動かしたまま、特殊な器具使って動いている心臓の一部を固定して、手術を行います。冠動脈に血流が流れたままの状態で血管を吻合するには高度な技術を必要とします。

心拍動下冠動脈バイパス術のイメージ図3

動脈硬化が進行している方、脳梗塞を合併の恐れがある方、肝機能や腎機能に障害を持つ方には特に有用で、人工心肺の合併症の可能性を少なくする目的で心拍動下冠動脈バイパス術は行われています。心拍動下冠動脈バイパス術は人工心肺使用例と比べ手術時間が短く、特に高齢の患者さんでは合併症が少ないというメリットがあります。当院では1998年10月に熊本県内で初めて開始し、2016年6月までに720例実施しています。

治療後

虚血性心疾患による心不全、急性冠症候群による突然死を免れ、また、発生を予防するための生活制限を縮小できます。