大動脈瘤



大動脈瘤とは

心臓から押し出された血液は、心臓に直結している大動脈という大きな血管を通って全身の臓器へ運ばれています。大動脈は直径が約2.5~3.5cmと体の中で最も太く、末梢の血管に血液を送る重要な役割をしています。大動脈瘤とは、この大動脈の壁が部分的にもろくなり、そこが瘤状に膨らんだ状態を言い、瘤ができた位置や形状によって様々な種類に分けられます。

瘤ができる位置による分類

胸部大動脈瘤・腹部大動脈瘤

瘤の形状による分類
  • 真性大動脈瘤

    真性大動脈瘤

    血管の壁を構成する内膜、中膜、外膜の3層構造が保たれたまま瘤状の膨らみができる。

  • 仮性大動脈瘤

    仮性大動脈瘤

    大動脈血管壁の内膜、中膜、外膜の3層とも一部が欠け、そこから漏れた血液が周りの組織を圧迫して瘤状になる。血圧上昇により、破裂しやすい状態。

瘤の形態による分類
  • 紡錘状動脈瘤

    紡錘状動脈瘤

    大動脈全体が大きくなり、ラグビーボールのように紡錘形(ぼうすいけい)をした動脈瘤を紡錘状動脈瘤という。胸部大動脈瘤の場合、最大径が5~6cm以上になると破裂の危険性が高い。

  • 嚢状動脈瘤

    嚢状動脈瘤

    大動脈の片側だけがふくれる形状の動脈瘤を嚢(のう)状動脈瘤という。小さくても破裂しやすいので、4cm以上になると手術を推奨される場合が多く、腹部大動脈瘤では5cm以上が破裂の危険が高まる。

  • 解離性大動脈瘤(大動脈解離)

    解離性大動脈瘤(大動脈解離)

    大動脈血管壁の内膜・中膜に亀裂ができ、内膜側と中膜側の間に血液が入り込み、2枚の膜の間が剥がされ、解離(裂け目)が拡がってゆくタイプ。発症時にかなりの痛みを生じる。

大動脈は次第に大きくなり、5~6cm以上に大きくなると破裂し大出血を引き起こす危険性があります。また、嚢状瘤、仮性瘤、急性解離性瘤などは小さくても破裂する場合もあります。動脈瘤は大きくなりますが、小さくなることはないため、治療が必要になります。

上記のうち、解離性大動脈瘤は特に深刻な病気です。血管の壁の一部が裂けてそこにできた空洞に血液が流れ込んだ状態を言い、血管の亀裂は周辺の動脈も巻き込み大出血につながる可能性があります。何の前触れもなく胸や背中に激痛が生じるなど、この病気の可能性がある場合は早急に医療機関を受診する必要があります。

発症の原因

ほとんどは動脈硬化が原因です。動脈硬化とは、動脈壁内にアテローム(粥腫)という油カスがたまり、血管が詰まったり硬くなったりして弾力性を失った状態です。血管の老化現象なので、年齢を重ねると誰にでも起こります。しかし、加齢のほかにも動脈硬化を早めてしまう原因がいくつかあります。

脂質異常症 血液中に含まれるコレステロールや中性脂肪が、正常より高くなる状態です。これらが動脈壁内にたまることで動脈硬化が進んでしまいます。
高血圧 血圧が高いと血管に加わる圧力が高くなり、血管の壁が傷み動脈硬化が起こります。
糖尿病 糖尿病は、眼や腎臓などの細い血管が先に障害され、動脈硬化が徐々に心臓や脳の血管まで伸展する原因となります。生活習慣の改善により進行を抑えることができます。
タバコ タバコに含まれるニコチンは、心拍数の増加、血管の収縮、血圧上昇を招きます。また、血液の粘度を高め固まりやすくする性質もあり、動脈硬化の原因になります。

上記のほか、肥満、高尿酸血症、遺伝的要素、外傷なども動脈硬化を早める要因といわれています。

症状

ほとんどの動脈瘤は破裂するまで自覚症状はありません。症状がありません。しかし、まれに以下のような自覚症状が出ることがあります。

胸部大動脈 動脈瘤によって喉の神経が圧迫され、声がかすれたり、動脈瘤が食道を圧迫し、食事を飲み込むときにむせる原因にもなります。破裂すると、突然の激しい胸痛、背部痛、意識消失、心停止に陥ります。
腹部大動脈瘤 痩せている方ではおへそ付近に膨らみや拍動を自覚することがあります。また、かなり大きくなるとおなかが張るといった症状が出る場合もあります。破裂してしまうと激しい腰痛や腹痛が生じ、胸部大動脈が破裂した場合と同様、早急な治療が必要になります。

検査について

偶然、ほかの病気で診察を受けた際に見つかる場合が少なくありません。また、健康診断時の胸部X線検査や超音波検査によって、動脈瘤が見つかる場合もあります。

もし、動脈瘤の可能性があると言われたら、専門医(心臓血管外科、循環器科)を受診し精密検査を受けましょう。診断を確定するためには、CT検査やMRI検査を行い、動脈瘤の正確な大きさや拡大する度合いを調べます。

治療方法

患者さんの状態に応じて方法を選択します。

外科治療(人工血管置換術) 人工血管置換術とは、大きくなった動脈瘤を人工血管に置き換える手術です。人工血管は非常に耐久性にすぐれた合成線維でできており、これを自分の血管の正常な部分に糸を使って縫い合わせていきます。開腹手術のため、ステントグラフト内挿術に比べ入院期間も長くなりますが、より確実な治療で、当院でも非常に安定した成果が出ています。
ステントグラフト
内挿術
ステントグラフトとは、人工血管の内側にステントというバネ状の金属を取り付けたものです。
それをさらにカテーテルの中に収納し、患者さんの脚の付け根を5cm程切開して動脈内に挿入します。動脈瘤のある部位まで運んだら、ステントグラフトが傘を開くように開放され、瘤内に血流が入り込まなくなり血栓化し徐々に小さくなる傾向がみられます。たとえ瘤が小さくならなくても、拡大を防止できれば破裂の危険性は無くなります。
この治療のメリットは、手術で胸部や腹部を大きく切開しないため、身体にかかる負担が極めて少ないことです。高齢や、心臓、肺、肝臓などが悪い患者さん、体力の弱った患者さんにとっては非常に有効な治療といえます。しかし、もしステントグラフトが何らかの原因でずれた場合は、新たにステントグラフトを追加するか、外科手術を行うことになります。このため、CT検査を定期的に行い異常がないか確認します。
このように、ステントグラフト治療と外科手術には、それぞれ特徴がありますので、患者さんの状態に応じて治療方法を決定していきます。
薬物治療 血圧を下げる薬を服用し、動脈が拡大するのを防ぎます。ただし、大動脈瘤の最大径が6cm以上に拡大してしまった方は、薬だけでは破裂を予防できません。降圧を目的としますが、動脈の瘤を小さくするものではありません。つまり根本的治療ではないということです。