低侵襲治療

MICS(小切開心臓手術)

MICS手術とはMinimally(最低限な) Invasive(侵襲の) Cardiac(心臓) Surgery(外科手術) の頭文字をとった、その名の通り侵襲の非常に少ない心臓の外科的手術です。通常、ほとんどの心臓外科手術では胸骨や肋骨を切開して手術しますが、骨が元に戻るまでに2~3ヶ月かかります。骨を切開せずに、肋骨と肋骨の間から特殊な器具を使って心臓にアプローチするようにした手術が、MICS(ミックス)です。これまでの心臓手術に比べ、切開の範囲が狭いため傷が小さく、術後の見た目が良い手術方法です。

従来の心臓手術とMICSの比較イメージ図

とくに女性は、傷口が乳房に隠れ目立たなくなるため、美容面のメリットが大きいと言えます。切開部分が小さいため、出血や術後の痛みが少ない、細菌感染のリスクが激減するなど多くの利点があります。その中でも、骨を切らないため術後の早期リハビリが可能で、退院や社会復帰を数ヶ月単位で短くできます。

切開手術と比べて狭い範囲で、また当院では内視鏡を見ながら手術を行うため、とくに執刀医の技量が重要になります。手術時間自体は従来の心臓手術(正中切開)と比較してやや長くかかりますが、傷口や術後の痛みも小さいなど、患者さんに大きなメリットがあります。

MICS後の傷口

当院ではMICSを、心臓の中で血液の逆流が起きる「僧帽弁逆流症」を治療する「僧帽弁形成術」の手術で2011年から採用。さらに2013年からは一部の適応症例において、MICSを完全内視鏡下で実施するなど、さらなる進化もすすめています。

対象疾患
僧帽弁膜症・僧帽弁閉鎖不全症・僧帽弁逆流症、大動脈弁膜症・大動脈弁閉鎖不全症・大動脈弁狭窄症・三尖弁膜症・三尖弁閉鎖不全症・三尖弁狭窄症、狭窄症・心筋梗塞・心房中隔欠損症・心臓腫瘍

特に僧帽弁形成、三尖弁形成、心房中隔欠損のMICS手術はdaVinciという手術支援ロボットを使用して行います。
2021年7月現在、以下の手術に対して、MICS手術に対応しています。

  • 僧帽弁形成
  • 僧帽弁置換(再手術例含む)
  • 大動脈弁置換
  • 三尖弁形成
  • 左心耳切除(左胸部アプローチ)
  • 心房中隔欠損
  • 心臓腫瘍
  • 心内血栓除去

当院は完全内視鏡下でMICS手術を行える全国的にも数少ない医療機関の一つですが、一方で、肺疾患や心機能の悪い方、冠動脈バイパス術など他の合併手術が必要な方には従来の切開で対応しており、患者さんの状態を総合的に見て、安全で適切な治療法を選択しています。

2019年より大動脈弁狭窄症も対象にMICS手術を実施しており、2021年からはMICSによる「スーチャレス生体弁置換術」を導入しています。スーチャレス生体弁置換術とは人工弁を縫合せずに弁を置換する手術です。これにより手術中に心臓を停止させる時間が短くなり、身体への負担を軽減することができます。

MICSはきわめてメリットが大きい手術であり、当院では標準的なアプローチになりつつあります。早期社会復帰を希望される方、術後の創部が気になられる方には非常に魅力的な方法と考えられます。