スタッフ座談会ーなぜ「断らない救急」を実現できるのかー
済生会熊本病院の「断らない救急」はどのように支えられているのか。
救急医療のチームスタッフはそれぞれ、現在、そして未来へ向けてどんなことを想っているのか。7名の座談会形式で話を聞きました。
症状ごとにチームを編成
佐藤当院は「断らない救急」を掲げて、年間1万8千人を超える救急患者さんを治療する急性期病院です。
西川24時間めまぐるしく様々な症状の患者さんがやってくるので、普段から心筋梗塞や重症外傷など、病態を想定したいくつかのフローチャートを作成しています。事前に救急車から入る情報をもとに、このフローに沿ってスタッフや資材・機材を準備し、チームで受け入れます。
佐藤例えば心筋梗塞が疑われる患者さんなら、まず救急外来のスタッフが急性心筋梗塞を見抜くための血液検査や心電図検査の準備をします。それに加えて、専門家である循環器内科の医師にも来てもらい、心筋梗塞の治療を行うカテーテル室や治療後に入院する集中治療室とも情報を共有します。救急対応をしつつ、いかに早くスムーズに高度な専門医療につなぐかが救急の使命です。
各自が主体的に動けることがチームとしての強さを生む
瀧下そんなチームの中でも、患者さんが到着すると、まず医師・看護師で診断と治療を始めます。医師が診断しつつ、看護師が点滴をして、そこに私たち救急救命士が診察や処置などでサポートすることもあります。
佐藤当院は職種間での連携がうまくいっていて、例えば各スタッフから「こういう検査をしますか」や「吐き気止めを準備しますか」など、積極的に提言をくれます。もちろん提言をもとに最終判断は医師がしますが、けっこうズバズバ言ってくれるので、判断材料として頼もしいです。
高本診療放射線技師は撮影時に気づいた異常所見などは直ちに医師へ報告する体制を整えており、他職種のスタッフとも積極的にコミュニケーションを取ることで、救急現場でもチーム医療の強化に努めています。
松野複数の患者さんに同時並行で対応することも多いので、そんな時、救急処置を医師の指示の下で行いつつ、重症度の高い患者さんを見逃さないように優先順位をつける(=トリアージ)ことも、私たち看護師の重要な仕事です。
佐藤例えば救急患者が混みあって10人の治療を同時並行で、という場合などは、情報が錯綜しやすくなります。そんな時、検査や処置のオーダーなどで全体を把握している医療秘書さんの情報が冷静・的確で、助けられるケースも少なくありません。
堺ありがとうございます。私たち医療秘書は、医師が紙に走り書きする検査依頼を素早くシステムに入力したり、必要なスタッフを招集したり、情報共有面のサポートをしているので、情報の整理という意味でお役に立てているのかな、と思います。
また救急現場は時間が勝負なので、医師・看護師が検査や治療に集中できるよう、スピード感を意識し、先を読んだ行動や、指示があればすぐ動けるようにしています。
法改正で責任とやりがいが増える
佐藤ほとんどの救急患者さんは迅速な検査と処置が必要であり、チーム医療を行う上で診療放射線技師や臨床検査技師がとても重要な役割を担っています。
高本私たち診療放射線技師は、救急外来のほぼ真隣にある放射線部にいます。救急外来の患者さんは来られてすぐレントゲンやCT検査を行うことが多いので、隣接した所で救急診療に必要な撮影を行っています。救急の患者さんは通常の方法で撮影できない場合もあるので、臨機応変な対応が求められます。
松岡私たち臨床検査技師は、患者さんの血液や体液といった検体の検査や、体に触れて行う生理検査、心電図やエコー検査などを通して、治療や診断に必要なデータを提供しています。また通常は検査室で検査を行いますが、現在週に1日、救急外来に常駐して、そこで検査も行っています。
高本また、今年10月には法改正が予定されていて、臨床検査技師・診療放射線技師・救急救命士などの職種が担える医療行為の範囲が広がります。これまで医師や看護師しかできなかった処置の一部を行えるようになります。
これは、医師や看護師の業務量が過重な現状を受けて、働き方改革の一環として、業務の一部を他職種へ移行するものです。これが「タスクシフト」と呼ばれるものです。
瀧下私は2年前までは消防署勤務で、〝救急車に同乗する救急救命士〟でした。救急車内なら法律上認められていた処置が、転職して〝病院にいる救急救命士〟になった途端、できなくなるものもありました。同じ救急救命士という資格を持っているのに、です。
でも10月からは、再びできるようになります。こちらの病院へ来た理由が「救急救命士の資格と技術が活かせる場面は、消防署や救急車以外にもあるはずで、職域や可能性を広げたい」という想いだったので、一歩前進できることが嬉しいです。
松岡私たち臨床検査技師も、タスクシフトで看護師が行っている採血を伴う静脈路確保などを行えるようになります。看護師が多忙な時は待ち時間が減るので、患者さんにもメリットになります。裁量が増えるぶん勉強することも増えますが、やりがいを感じます。
救急現場以外にも救急の業務がある
佐藤救急対応が終わった後にも、救急スタッフの業務はいくつもあります。
西川救命救急外来の看護師は、救急患者さんに、再発を防ぐための注意点など退院後・帰宅後のアドバイスもしています。
瀧下転院する際には、搬送するのは私の仕事です。病状によっては転院先まで同乗することもあります。
堺医師がボイスレコーダーに入れた録音をもとに診療情報提供書を作ったり、診断書をまとめたり。事後の情報整理もしています。
佐藤勉強会も開いています。「こうしていたら、あと2分早く治療できたんじゃないか」とか、いろんなテーマで。月1回は消防など院外スタッフも参加して「あの患者さんはその後どうなったか」など、症例を振り返って検証しています。
松岡日頃は検査室で救急検査を行うことが多いため、個人的にですが、可能な時は現場に顔を出してコミュニケーションを取るようにしています。
堺私もチームワークのためにコミュニケーションを心がけていて、医療に関する話はもちろん、普段からの雑談(主に食べ物の話ですが…)が大事だな、と実感しています。救急スタッフの皆さんはスイッチが入ると全力集中で治療に当たるので、だからこそスイッチオフの時間は仲良く過ごしたいんです。
熊本は救急医療の「たらい回し」がほぼない
佐藤熊本の方に覚えておいていただきたいのは、全国的に見ても救急医療が恵まれているということ。「たらい回し」がほとんどないんです。それを支えるために、症状や混雑などで「行くところがない」患者さんは、当院が〝最後の砦〟という覚悟で引き受けています。それが冒頭でもあった「断らない救急」という使命です。
患者さん、地域の皆さんにどうしても伝えておきたいこと
佐藤最後に、これは病院前から院内まで、救急に携わる者の総意としてのお話です。
救急車を呼んだ患者さんが「あの病院へ行って!」と希望されることがあります。しかし実際は、各病院の状況や患者さんご自身の重症度などから適切な医療機関を選定しており、どの病院に搬送されるかは救急隊が総合的に判断します。ご希望に添わない場合がありますが、ご理解いただければと思います。
瀧下まさに私も〝救急車に同乗する救急救命士〟だった時、ご理解いただけず苦しんだ経験があります。地域医療は一人だけのものではないので、私たちを信じて託していただきたいです。
松野もうひとつ似たお話ですが、複数の救急患者さんに同時に対応している時、後から来た、より生命の危機にある患者さんを先に治療することがあります。これも看護師が総合的に判断した結果で、先述した「トリアージ」です。看護師は事前に訓練を受けており、判断力を養うための研修も随時行うなどスキルアップを図っていますので、ご理解をお願い致します。
救命救急の素朴なギモン Q&A
搬送先の病院は選べますか?
搬送先は救急救命士を含む救急隊が選定します。救急救命士は国家資格を持つ医療者で、重症度・緊急度に応じて適切な医療機関を選んでいます。
救急外来に来ても待ち時間が長いことがあるの?
あります。看護師がトリアージを行い、重症度・緊急度を判断した上で順番に診療・処置を行っています。命の危険が迫った患者さんが多くいらっしゃる場合、待ち時間が長くなることもあります。また、待ち時間が長くなる場合、定期的に看護師が声をおかけして容態の変化がないか確認したり、痛みが強い場合は早めに鎮痛処置を行うなどできる限りの対応をしております。
救急車を呼ぶか、自力で行くか迷ったらどうすればいい?
お電話で問い合わせをいただくと、看護師が状況をお伺いして助言いたします。全国版救急受診スマホアプリ「Q助」などでも自己診断の支援が可能です。