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済生会熊本タイムズ

地域に最先端の医療をいち早く提供する当院の取組みや様々な情報をご紹介します。

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この仕事を選んだ私ー薬剤部・薬剤管理指導室長 救急認定薬剤師 柴田 啓智ー

この仕事を選んだ私63号より

どんどん前に出ていく子どもでした

出身は長崎で、小中学校はサッカー部でした。当時は国見高校の全盛期で、国見は中学校も小学校も強く、32対0で負けたのを憶えています。「サッカーってこんなに点が入るスポーツなのか」と。 自ら前に出るのが好きな子どもでした。だから生徒会の役員を買って出たり。4歳からエレクトーンを習っていて、人前で演奏するのも大好き。根本的な性格は今も変わらないと思いますが、薬剤師という裏方の仕事に就いているのが不思議ですね(笑)。

中学で電子音楽のバンドを組み、その延長線上で電子サックスに興味を持ち、高校から吹奏楽部に入りました。高校は部活とバンドの音楽漬けで「将来も音楽の道に進みたい」と考えるように。ただしプロのミュージシャンではなく、道具としての電子楽器を作りたい、そのために工学部で電子工学を学びたい、というものでした。

高校生でまさかの十二指腸潰瘍

しかしそんな私に、担任は医学部・薬学部への進学を強く勧めてきました。理由は、適性検査で医療系に高い判定が出たから。でも私自身の意志は固かったので、勧められるほどストレスを抱えていくばかり。結果、まさかの十二指腸潰瘍で入院しました。飲酒、喫煙やストレスが主因の病気なので、めったに高校生はかかりません。

後日聞いた話では、高校が理系の特進コースを創設した年で、医歯薬学系への進学実績を作りたかったようです。学校の都合で潰瘍になったのだから怒ってもいいくらいですが、運命のいたずらで、その入院での出会いが今日の私に至るきっかけになります。

入院中にいちばん話をしたのが、医師よりも看護師よりも薬剤師の方だったのです。ちょうど国の方針が変わって薬剤師の病棟での仕事が始まったタイミングで、その方も「病棟に来たはいいが、どうすれば」と一所懸命に手探りだったのだと思います。もともと化学が好きだった私は〝薬のプロ〞という仕事の魅力を知り、考えが変わっていきました。

入院は高3になる春でしたが、退院後すぐ、志望を薬学部に変更しました。親友も、仲良くしていた化学の先生も「いいと思う」と言ってくれました。私をよく知る人が賛成してくれたということは、客観的にもしっくりきたのだと思います。

病院で一人目の救急認定薬剤師に

大学を出てこの病院に入り、しばらく経った2015年、次の転機がやってきました。「救急認定薬剤師」の制度が始まったのです。済生会熊本病院は急性期医療で日本一をめざす病院で、救急認定薬剤師も病院にとって絶対に必要だ。そんな職場の方針と自分の気持ちが合致して、私がその第一号になりました。

救急患者に必要な薬はあらかじめカートで用意してあり、基本の30種ほどの薬が入っていますが、そこにない薬が必要になる場合もあります。そんな時、パッと患者さんを見て機転を利かせて必要な薬をすぐ出せるようにする。手術で「メス」と言われる前にメスを用意しておくように、先を読む。例えばそういう仕事です。

一刻を争う救急現場で〝一刻〞を短く

薬剤師は、薬局で処方箋通りに薬を出す人、というイメージも強いですが、私は「薬の専門知識に基づき、医師や看護師をはじめとするチームの中で薬を提案する役割」と認識しています。それを救急現場や病棟で日々、実践しています。

例えば、ある手術患者が血圧が急に落ちたことがありました。医師が血圧を戻す措置をしながら原因を探る傍らで、薬の服用歴を確認するとある抗生物質がありました。抗生物質はアレルギーを引き起こしやすいのですが、調べてみるとその日、投与が始まったばかり。「先生、アナフィラキシーかもしれません。抗生物質を止めましょう」と進言し、結果としてそれが回復につながりました。

医師も原因を突き止められたと思いますが、薬剤師が先に気づけば、一刻を争う治療の〝一刻〞を短くできる。それが救急に関わる薬剤師の使命です。働きながら大学院に通ったのも、意見の精度と信頼度を高めたかったからです。

でも実は、その大学院に通っていた時、「薬剤師って要らないかも」と思ったことがありました。学ぶほどに、医療に必須なのは医師と看護師で、薬剤師なしでも成立すると感じたからです。じゃあそれでやる気をなくしたかというと、むしろ逆。「必須な役割でないぶん、必要とされるよう頑張らねば」という思いが強くなりました。
後輩にも、医師をはじめとするチームに必要とされ、自分の意見が認められ、実際の治療に反映されて患者さんの回復につながる、という体験をできるだけ積んでほしい。人に教えることは好きなので、自分の知識や経験を伝えてサポートをしていきたいです。

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