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済生会熊本タイムズ

地域に最先端の医療をいち早く提供する当院の取組みや様々な情報をご紹介します。

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済生会に求められるものと、これから。

済生会に求められるものと、これから。

済生会は、地域にとってどんな存在であるべきなのか。
元熊本県知事で一昨年から全国の済生会会長を務める潮谷義子氏と、済生会熊本病院の中尾浩一院長の対談を通じて、改めてその役割や展望について考えます。

 

中尾院長

恩賜財団済生会熊本病院 院長
中尾 浩一 Koichi Nakao
1997年から済生会熊本病院に入職。心臓血管センターで循環器内科医として心臓病のカテーテル治療などに従事。医療の国際評価であるJCIの受審認証の責任者や副院長を務めた後、2017年から済生会熊本病院の院長に就任。京都などの旅先では必ず寺社を巡り、カラフルなお守りを旅の記録として収集している。

潮谷義子会長

恩賜財団済生会 会長
潮谷 義子 Yoshiko Shiotani
佐賀県庁・大分県庁勤務から熊本・慈愛園乳児ホーム施設長として、一貫して福祉の現場を歩む。福祉政策のブレーンとして熊本県副知事に抜擢され、2000年に熊本県初の女性知事に。知事退任後は大学の学長・理事長などを経て、2022年から済生会の会長に就任。ずっと健康でほぼ病院の世話になったことがなかったが、昨年、入院を機に数十年ぶりに済生会熊本病院で人間ドックを受けた。

 

弱者に手を差し伸べる、という 理念でつながっている。

中尾福祉の現場を誰よりも理解されていて、マネージメント経験もあって、知事として行政を担った実績もある。しかも、ほかでもないここ熊本にお住まいの方。潮谷会長が、全国の済生会をまとめるお立場に就任されて、とても心強いです。

 

潮谷ありがとうございます。済生会の炭谷理事長が国家公務員としてお勤めの時代に、福祉・環境・人権問題を一緒に取り組ませていただいた時から誠実なお人柄を存じ上げていて、炭谷さんから依頼されたら断るわけにはいかなかったんです。

 

潮谷会長から見て、全国の済生会全体のつながりはどのように感じますか?

潮谷済生会という名の医療施設は全国にあって、それぞれ個性が異なりますが、私が見るかぎり、緩やかな中にも強い結束を感じます。

 

中尾済生会は、公立病院でも民間病院でもなく、社会福祉法人です。それはつまり「社会的使命」を負っているということ。各病院や施設はそれぞれ独立して運営していますが、生活困窮者、障がい者、刑余者をはじめ「社会的弱者に手を差し伸べる」という、済生会独自の理念は共通です。それが強い結束につながっているのだと思います。

 

どのようなときに、結束を感じましたか?

中尾なんといっても2016年の熊本地震です。約1カ月半にわたって、全国から多くの済生会スタッフが当地に駆けつけ、たくさんの物資が届けられました。とにかく動きが早く、面識のなかった方々が、被災直後のまだ余震も続く危険な環境に次々に集まってくださって。「困ったときの友が、本当の友」とはまさにこのことでした。

院外や地域まで俯瞰して、連携していくことが必要。

これからの済生会に、どのような役割が求められると思われますか?

潮谷私はずっと、「共生社会」について考えています。高齢者、重い病気を抱える方、障がい者のほか、認知症の方、受刑後の出所者など、社会にはサポートを必要とする様々な方がいます。それをいかに支え合っていくか。今は支える側の人も、いつか支えられる側になる。自分ごととして考える必要があります。
そのためには、医療と福祉と保健と、そして地域の方々がもっと密に連携しないといけない。命を守るという意味で一体のはずです。サポートが必要な方々のニーズを発見し、応える仕組みをどう作っていくか。そこまで考えて日々の業務に取り組めれば、地域にとって済生会がもっと不可欠な存在になっていくはずです。

 

中尾潮谷会長はやっぱり福祉の人。困っている人を助けたい、という想いがすべての根底にあると感じま す。それは済生会の理念ととても近いです。
連携という意味では、当院は急性期医療に特化しているため、在院日数が短い。その後は連携機関にバトンを託す形になっています。医療の流れからみると最初の一部を担っているに過ぎません。だから退院後も含めた医療の全体像を掴むために看護師をはじめとしたスタッフが連携先に訪問・出向するなどして学んでもらっています。

 

潮谷病院の中だけを見ていてはいけないですね。地域の現場を知らな、いと、さりげないニーズに気づけない。「実践は理論に導かれ、理論は実践に導かれる」という、私が学生時代に教わった言葉を思い出しました。

 

中尾急性期病院というと、急に具合が悪くなった人が搬送されるイメージがありますが、最近はもともと病態の不安定な人が繰り返し搬送されるケースが増えています。これも医療、介護、福祉、保健がもっと連携すれば予防できるはずです。

理念を実現するために危機感を持って経営に取り組む。

潮谷もうひとつ大切なのが、無駄をなくしていくこと。私が副知事になった1999年は、ちょうど国体開催のため県財政が厳しいタイミングで、支出チェックに取り組んだことがありました。家計なら給与が減ったり大きな支出があれば、代わりに他を減らそう、とやりくりするはずなのに、県財政になるといろんな理屈をつけて「これは減らせない」と抵抗する人が少なくなかった。「家と県は同じじゃない」と強い批判を受けました。でもそれはおかしい。県でも病院でも何でも、家計と同じように自分ごととして取り組むべきなんです。

 

中尾潮谷会長が、ある寄稿で「ちゃんと利益を出さないとダメ」と書かれていたのを見て、最初は少し驚きました。福祉の人だと思っていたのに、商売の儲けのようなことを言う。でもよく考えれば、福祉でも医療でも、経営的な基盤があってこそ理想を実現できる。知事や理事長の経験によるリアリズムから生まれたご意見なのだと思いました。医療の無駄を抑えること、そのスリム化はこれからの大きなテーマになると思います。

 

潮谷全国の済生会を見ていますが、この済生会熊本病院は、経営が非常に安定しています。なぜだろう?と考えると、きっと地域ニーズを的確に捉えているから。ひとつの病院であらゆる診療科を担う必要はなくて、地域性や人口、周囲の医療機関との役割分担などを考えて、必要と判断した診療科や機器を保有しているのだと思います。

 

中尾ありがとうございます。人口が多く伸長している都市なら、医療の消費者である患者さんが常に発生しますから、医療需要や取り組むべき領域の議論をせずとも経営は成り立ちやすい。でも少子高齢化や人口減少は地方ほど深刻で、熊本は全国平均より先行している地域が多い。危機感を持たずにはいられません。

 

役割を果たしていくために、経営の視点も重要ということですね。

中尾そのとおりです。当院の基本方針に「救急医療」と「高度医療」がありますが、それには大きな人的、物的な資源投入が必要です。もし利益だけを考えるなら、人手や機器が少なく済む医療のほうが、経営が安定しやすいかもしれません。
しかし、私たちが医療の進歩を注視していないと熊本の医療がどんどん遅れてしまいます。建前でも何でもなく、まず何より熊本の医療を良くすること。そのために必要な技術は採り入れていく。たとえそれが短期的には負担が大きくても、将来性が期待でき、地域に恩恵があると判断できれば、院長としてGOサインを出します。常に新たな治療を採用することで、スタッフの士気も上がります。たとえば手術支援ロボットのダヴィンチは非常に高価ですが、低侵襲で患者さんのメリットが極めて大きいと判断して、全国的にもかなり早い段階で導入しました。当地熊本の皆さんに良質かつ適切な医療を効率的に提供するために、経営の持続可能性という視点を併せ持ちながら、価値の高い医療に積極的に取り組んでいきたいと考えています。

低侵襲:身体への負担が小さいこと

持続可能な医療のために社会全体で考えていく必要がある。

いま特に課題として感じることは何ですか?

潮谷済生会熊本病院の課題は、立地。朝、病院へ行くときはいいけれど、診察を終えて帰ろうとしたら手段がない場合も。車で通院することが前提のような立地ですが、免許返納などで運転できない方も増えていく中で、そこは対策が必要でしょう。

 

中尾課題と言いますか、いま医療の現場で最も大きな変化は、医師の健康確保と長時間労働の改善を目的に行われる“働き方改革”だと思います。日本中の医療関係者がいま向き合っているテーマでしょう。今春から医師の時間外労働時間に上限が設けられることになります。
世界的に見ても、日本の医療はかなり手厚い。何かあれば主治医が休みでも駆けつけてくれるとか、病状や手術の説明に長時間費やしてくれるとか。患者さんと医療者の双方が、医療にそうした「温かさ」を求める文化が日本にはあります。でもそれを続けていると、近い将来、医療が疲弊し、破綻してしまう。
解決のためには、これまで当たり前だったものが、そうではなくなっていく現実に、地域社会全体の理解が必要と考えています。もちろん我々も、医師が交代してもきちんと情報共有するとか、仕事をシェアしていくなどのチーム医療で、患者さんに不利益が生じない体制づくりを進めています。

 

潮谷労働時間を短くするために機器の導入で解決できるものは、どんどん進めていくべきでしょう。看護師が担える仕事をもっと増やして医師をカバーしていくことも重要です。

 

中尾まさに当院でも、専門看護師や認定看護師などの資格取得に力を入れています。

 

潮谷会長は熊本にお住まいですが、この病院を利用されたことはありますか?

潮谷実は先日、家で転倒して担ぎ込まれました(笑)。私以外にも患者さんが多かったのに驚きましたが、それ以上に、隣の患者さんを励ますドクターの言葉に感動しました。「一緒に頑張りましょう」って。これって、あなたが頑張ってください、ではなくて、あなたの大変さを私も分かち合いますよ、という共感の表現です。短い言葉に強いメッセージが込められている。素晴らしい医療を提供されていることを実感しました。

 

中尾先ほど働き方改革の話をしましたが、医師やスタッフがそういう心のこもった医療を提供できる環境を、これからも守っていくのが私の役割。信頼ある医療が持続可能でありつづけるために、みなさんと一緒に考えていきたい。そういう時代に入ったと思います。

 

今年の済生会学会・総会は特に意義深い背景があると伺いました。

中尾今回、ここ熊本で開催される済生会の学会・総会は、本来は6年前に予定されていました。それが地震とコロナで2度延期になり、ようやく実現に至ったものです。でも延期となった結果、一昨年に就任された潮谷会長をお迎えできました。熊本・小国の出身で、済生会の発足に深く関わり、芝病院(現:東京都済生会中央病院)の初代院長を務めた北里柴三郎博士の肖像が描かれた新千円札が発行される年にも重なりました。
災害災厄を乗り越えていくつものご縁が重なった、記念すべき学会であり総会です。そのことを噛み締めながら、済生会および済生会熊本病院がさらに発展していく契機になることを願います。

 

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