熊本でここまでできる弁膜症の低侵襲治療
弁膜症の最新治療
身体的負担の少ない治療が高齢の方や透析の患者さんにも弁膜症治療の選択肢を拡大
心不全パンデミックに備えて
すでに日本人死亡原因の上位でもある心不全※ですが、近い将来心不全の患者さんが爆発的に増えて、病床が溢れることが懸念されており、社会的な影響が深刻だといわれています。 済生会熊本病院では低侵襲治療を積極的に導入するだけでなく、予防にも力を入れ、心不全パンデミックに備える体制を構築しています。
- 心不全とは…心臓に何らかの異常があり、必要とする血液を十分に送り出せなくなった状態(あらゆる心疾患の終末像)
心不全の主な原因「弁膜症」
心不全の主な原因として心臓弁膜症があります(心臓の弁に障害が起き、適切な機能を果たせなくなる疾患)。
大動脈弁狭窄症と僧帽弁逆流の2つが主な原因となりますが、弁膜症の多くはゆっくりと進行するため、初期にはほとんど自覚症状がありませんが、気づいたときには心不全となり、取り返しのつかない状態になることもあります。
最新の弁膜症治療と予防策
外科的治療
外科手術が可能な患者さんの場合、治療の第1選択肢は「僧帽弁形成術」です。
当院では2019年6月より手術支援ロボット・ダヴィンチによる僧帽弁形成術を開始しました。
ロボット手術のメリットは従来の外科的手術では大きな胸骨正中切開で行う手術を、小さい穴数カ所で行います。骨を切らないため、出血が少なく創口も小さく済み合併症の確立も低く抑えられます。
心臓は非常に出血しやすく、さらに常に拍動しているという特徴があります。ロボット支援下で心臓手術をするためには、一定の基準を満たし、学会の認定を受ける必要があります。全国的にも心臓のダヴィンチ手術を行うことのできる施設数は限られています。
※九州内では当院と九州大学病院が認定施設です(2021年2月現在)。
薬による治療、そしてカテーテル治療(TAVI、MitraClip)
近年国内でも使用が出来るようになった新規の心不全治療薬により、心不全治療は新しい時代に入っていますが、カテーテル治療(患者の太ももの付け根などから静脈に細い管を挿入して治療する方法)もめざましく進化しています。
当院が2013年に開始した大動脈弁狭窄症のカテーテル治療(TAVI)は累計700例を超え、さらに2021年には九州で初めて透析患者のカテーテル治療が可能な施設として認可されています。
一方、薬物による治療をしても心不全症状が残る症例に「僧帽弁逆流症」のカテーテル治療(マイトラクリップ)を選択します。
マイトラクリップを用いた治療は「僧帽弁閉鎖不全症」を改善する治療方法で、クリップで不全を起こしている僧帽弁の弁尖を挟んで留め、 血液の逆流を減少させる治療です。外科的弁置換術・形成術の危険性が高い患者さんへの適応となっており、高齢などで外科手術が不可能だった患者さんへの新たな治療の選択肢となっています。
当院は2018年より南九州で初めて開始しています。
心不全を未然に防ぐために ―遠隔モニタリングで心不全に陥る前に異変を知らせる―
2020年の秋より遠隔モニタリングシステム「ハートロジック」*1 を全国に先駆けて導入しています(全国で3病院)。
この遠隔モニタリングシステムの仕組みは、ペースメーカ機能付植込み型除細動器を手術された患者さんが、心不全に陥る前に、患者さんの症状が表れない段階で、心不全の前兆をよみとり、異変を知らせる*2 画期的なシステムです。
遠隔モニタリングシステムは、新型コロナウイルスへの感染予防で自粛生活の続く環境下においては、患者さんが通院するための外出に伴う負担やリスクを低減させることも期待されます。
- 1)「ハートロジック」はBoston.scientific 製品で同社両心室ペースメーカ機能付植込み型除細動器のみに搭載された機能です。
- 2)HeartLogic アラートが発現した際は、患者の状態や他の指標とあわせて総合的に評価した上で、治療の要不要及び治療方針を決定しています。
治療実績
手術疾患名 | 2019年度 | 2020年度 | 2021年度 |
---|---|---|---|
弁膜症手術総数 | 258 | 239 | 293 |
TAVI(経皮的大動脈弁置換術) | 107 | 91 | 128 |
MitraClip(経皮的僧帽弁クリップ術) | 43 | 30 | 43 |
弁形成術(合計) | 48 | 65 | 46 |
弁形成術(開胸) | 15 | 16 | 13 |
弁形成術(胸腔鏡下/MICS) | 16 | 4 | 4 |
弁形成術(ダヴィンチ) | 17 | 45 | 29 |
弁置換術(合計) | 60 | 53 | 76 |
弁置換術(開胸) | 51 | 36 | 37 |
弁置換術(胸腔鏡下/MICS) | 9 | 17 | 39 |
※上記実績は記事作成時点での情報です。
弁膜症治療のリーディングホスピタルとして
当院は弁膜症治療においては、県外からの患者さんも少なくなく、症例では九州でもトップクラスの経験を積んでいます。 2022年12月からは弁膜症ホットラインも開設し、その経験・実績を活かして、今後より一層皆様のお役に立ちたいと思っております。
心臓弁膜症の症状は加齢に伴う身体の変化に似ていることから、見逃されがちですが 気になる症状がある方は、一度かかりつけ医にご相談いただくことをおすすめいたします。
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