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済生会熊本タイムズ

地域に最先端の医療をいち早く提供する当院の取組みや様々な情報をご紹介します。

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心停止患者へのECMO(体外式膜型人工肺)使用

心臓や肺の機能を一時的に代替・補助するECMO(extracorporeal membrane oxygenation)。
当院では回復の見込みがあると判断した心停止患者に対して、できるだけ早い段階で使用することで、蘇生率の向上を目指しています。

急性期に心臓を休ませ回復につなげる。

「ECMO(エクモ)」は、一定期間、心臓や肺の機能を補助的に代替する治療法です。人工心肺は手術中などの短時間、心臓や肺を完全に停止させて100%代替するのに対し、ECMOは数日から1〜2週間、心臓や肺は動かしたまま、その一部を補助します。

ECMOは血管内に挿入したカテーテルを通してポンプで血液を体外へ排出し、人工肺を通る間に血液中の酸素と二酸化炭素が交換され、再び体内に戻されます。酸素交換の肺の機能と、その血液を心臓の代わりに循環させる機能の両方を代替します。日本では古くから「PCPS」とも呼ばれています。

ただしECMOそのものが治療を行うわけではなく、心臓の機能が低下している間、心臓を休ませ、回復を待つためのサポートを行うものです。

ECMOの仕組み

ECMO+インペラ=エクペラ

ECMOは全身への血液循環を十分に維持できるものの、心臓に負担をかけるという欠点があります。その欠点を補うのが、留置型ポンプカテーテルであるImpella(インペラ)というデバイスです。小型のポンプを内包したカテーテルを心臓内に留置することで、一時的に心臓の代わりにポンプ機能を担います。当院では基本的にECMOとインペラを併用(これを「エクペラ」と呼びます)することで、蘇生率の向上を図っています。

2種類のECMO

ECMOには、肺の機能のみを代替する「V-V ECMO」と、心臓と肺の両方の機能を代替する「V-A ECMO」があります。コロナ禍においては、重症な肺炎に対し一時V-V ECMOの存在が脚光を浴びましたが、現在当院で使用されているのは、ほぼV-A ECMOです。本文中の説明もV-A ECMOを前提としています。

「だめならECMO」から「早期ECMO」へ。

日本では年間約10万人が心肺停止の状態で搬送され、その約6割は心臓に原因があると報告されています。心肺停止の患者さんには、まず心臓マッサージなどの心肺蘇生法を行います。この際に最も重視するのは「脳血流の維持」です。心臓が停止すると、脳への酸素供給が途絶えて約10秒で意識を失い、その後1分以内に呼吸も停止します。10分以上経過すると脳に不可逆的なダメージが生じます。心臓マッサージを行ったとしても、全身への血流は十分ではなく、30分以上蘇生を継続しても心拍再開が得られない場合、社会復帰は厳しくなります。

つまり「心肺蘇生を行って、だめならECMOを準備する」という対応では、脳蘇生に間に合いません。そのため当院では、条件に基づき社会復帰の可能性があると判断した患者さんには、搬送後すぐにECMOを用いた心肺蘇生に切り替えます。

他の医療機関では、ECMOを「最後の手段」として心肺蘇生に反応しない患者さんに使用することが多いのが現状です。当院でもかつてはそのような運用を行っていました。しかし「早期ECMO」の考え方に切り替えたことで、蘇生率が大幅に改善しました。

ちなみに学校や駅などにAEDが設置されている最大の目的は、心停止時間をできるだけ短縮し、その影響が脳に及ばないようにすることです。

ECMOは“諸刃の剣”でもある。

当院のECMO実績は、2021年に39件、2022年に29件、2023年に37件で、これは日本でも有数の留置件数です。ECMOは高度な技術と専門的な人材、そして優れたチームワークが求められる治療法です。F1のピット作業のように、医師、看護師、臨床工学技士など、すべての職種が密接に連携する体制が不可欠であり、限られた病院でのみ実施が可能です。

先ほど「早期ECMO」と述べましたが、だからといって救急搬送されてきたすべての患者さんに使用するわけではありません。その最大の理由は、ECMOが決して低侵襲な治療ではないからです。血液を体外に脱血するために、太いカテーテルを血管に挿入する必要があり、出血や感染、塞栓症といった重大な合併症リスクもあります。体への負担が大きい、〝諸刃の剣〟といえる治療法です。そのため、心肺蘇生だけで回復が可能ならそれが望ましく、適応や導入タイミングは慎重に検討する必要があります。

  • 低侵襲…患者さんの体への負担(=侵襲)を、従来より低くした治療のこと。

実績を人材育成に活かしたい。

救急搬送されてくる患者さんの中で、ECMOによって救命できる可能性が高い方を確実に対応できる体制を維持したいという思いがあります。先述の通り、当院はECMOの実績が豊富であり、その経験を積める貴重な環境ですが、同時にマンパワーの確保も重要です。ECMOや重症患者の管理に関心のある医師やメディカルスタッフの方々と、当院で共に働き、成長していけることを期待しています。

 

お話を聞いた先生

鵜木 崇

循環器内科 副部長
鵜木 崇(うのき たかし)
新しい趣味を模索中。

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