がんになったとき、お金は? 仕事は?知っておきたい制度や支援
「日本人は2人に1人はがんになる」ことは、よく知られるようになりました。 しかし意外と知られていないのが「がん患者の3人に1人は20代から60代のいわゆる“現役世代”である」ということ。決して高齢者だけのものではないのです。 そして多くの方が、自分が「がんになった」という事実を心の準備がない状態で突然知ることになります がんに直⾯したとき、仕事はどうするのか?治療費はどれくらいかかるのか?など、がん治療に関わる“お金”のことそして知っておきたい制度や支援についてご紹介します。
がんは「不治の病」から「共生する」時代に
ひと昔前は、がんは「不治の病」のイメージがあり、治療も⼊院が中⼼でした。しかし現在では、がん治療は低侵襲で入院期間が短く、治療の主体は通院にシフトしてきています。場合によっては検査から治療まで一度も入院することなく通院で手術・薬物療法・放射線治療をおこなうことも少なくありません。治療による⽣存期間も長くなり、5年⽣存率※は6割を超えるようになりました。
がんの治療には様々なものがあります。おもに「手術」「薬物療法」「放射線治療」の3つの方法があります。病気の種類や状態により、治療方法は変わりますが現在ではより高い治療効果を目指して、それぞれの治療を組み合わせて行う「集学的治療」と呼ばれる治療も増えてきています。
医療の進歩によりがんの治療効果がどんどん良くなるにつれて、がんと共に生活をする期間も増えていきます。生活をどうするか?仕事をどうするか?家族への影響は?など、ご自身のことを少し考えてみてください。
※国立がん研究センターが運営する公式サイト:がん情報サービス >「最新がん統計」より(2022年8月現在)
がんになったときかかるお金
日本が誇る 公的医療保険制度。でもそれだけでは足りない?
がん治療にはさまざまな費用がかかります。そのうち、検査費や入院費、薬代などは公的医療保険の対象(=保険適用)となり、「高額療養費制度」などを利用することで、負担を軽くすることができます。
高額療養費制度とは、ひと月あたりの 医療費が自己負担限度額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度です。自己負担限度額は患者さんの所得や年齢によって、ひと月あたり約 8000円〜25万円程度と幅があります。公的な保険で負担が軽くなるとはいえ、家計への負担は少なくありません。
あなたのがん保険は大丈夫?
公的医療保険だけでカバーしきれない部分は、民間のがん保険に加⼊しておくことも選択肢でしょう。がん保険は多岐にわたり、保障の内容や特約などもさまざまです。加入の際は各保険の担当者に確認し、時代に合ったものを選びましょう。
がん保険に加入してから長い時間が経っている方は、保障内容を確認しておくことが必要です。その理由は、加入当時は入院だけが想定され、通院治療が想定されておらず、通院治療が支給の対象外になるケースもあるためです。「がん保険に入っていてよかった!」と思ったら、自分の治療が対象外で支払われない、という場面も実際にあり、要注意です。
見落としがちな費用
がん治療にかかる費⽤は、直接的に医療に関わるものだけではありません。
通院のための交通費や宿泊費がかかるケースもあります。入院での治療となる場合は医療費以外に食費や日用品代もかかります。個室を選ぶと、差額ベッド代は自己負担になります。また抗がん剤の副作用で髪が抜けた場合に、医療用ウィッグは数万円〜高いものでは10万円以上するものもあります。
これらはいずれも公的医療保険の対象にならないため、すべて実費で負担することになります。
がん治療にかかるお金
公的医療保険等の対象となる費用
- 血液検査、CT、レントゲン、エコーや生検などの検査費用
- 診察費用
- 手術費用
- 調剤薬局で支払う薬代
- 病院で支払う抗がん剤治療などの薬代
- 入院費用 など
それ以外にかかる費用
- 通院のための交通費(ガソリン代含む)
- 診断書や生命保険会社への証明書の作成代
- 入院時の日用品や寝衣代
- 入院時の差額ベッド代
- 入院時の食事代 など
がんになったとき支えになるもの
支出は増える。収入は下がる。
このように、がんになるとさまざまな費用がかかり、支出が増えます。一方で、治療のために仕事量を減らしたり休んだりすると、以前より収入が減ってしまう可能性があります。
このような状況で、まず頼りになるのが「傷病手当金」です。これは健康保険協会、健康保険組合、共済組合などの保険に加入されている方が治療のために仕事を休むことになった場合に、直近12カ月間の平均給与の約3分の2が、支給開始日から通算して1年半「最長」にわたって支給されるものです。
ほかにも、1年間の医療支払いが⼀定額を超えると確定申告で還付を受けられる「医療費控除」など、以下のような社会保障制度が用意されています。
利用できる制度と相談窓口
医療費の負担を軽くする公的制度 | ||
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相談内容 | 利用できる制度 | 相談窓口 |
医療費の払い戻しを 受けたい | 高額療養費制度 | 加入している公的医療保険(健康保険組合・協会けんぽ・国民健康保険・後期高齢 者医療制度)の窓口 |
税金の還付を受けたい | 医療費控除 | 住所地管轄の税務署 |
介護保険制度 | ||
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相談内容 | 利用できる制度 | 相談窓口 |
介護が必要となる可能性がある | 介護保険制度(訪問介護、訪問看護、 通所介護、福祉用具レンタルなど) | 市区町村の介護保険担当窓口、地域包括 支援センター、居宅介護支援事業所、医療 機関の相談窓口(退院支援担当等)など |
生活を支える制度(生活費などの助成や給付など) | ||
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相談内容 | 利用できる制度 | 相談窓口 |
休職を検討したい | 傷病手当金 | 勤務先の担当者、協会けんぽ、健康保険 傷病手当金 組合など |
雇用保険基本手当の受給期間延長制度 | ハローワーク | |
生活や仕事などが制限される可能性がある | 障害年金・障害手当金(一時金) | 年金事務所、年金相談センター、市区町村の国民年金担当窓口 |
がんの治療で障害(例:人工肛門など)が残る可能性がある | 身体障害者手帳 | 市区町村の障害福祉担当窓口 |
生活が苦しい・生活にかかる 経済的支援を受けたい | 生活福祉資金貸付制度 | 市区町村の社会福祉協議会 |
生活保護制度 | 住所地管轄の福祉事務所 |
民間保険 | ||
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相談内容 | 利用できる制度 | 相談窓口 |
保障の内容を確認したい、 給付金などを受け取りたい | 給付金、各種特約 | 加入している保険会社の担当者、窓口、コールセンターなど |
※国立がん研究センターが運営する公式サイト:がん情報サービス >「最新がん統計」より(2022年8月現在)
がん治療のために仕事をすぐに辞めないで!
仕事をしている方が、がんと診断された場合に、できるだけ仕事を辞めずに働きながら治療する、つまり「治療と仕事の両⽴」が、国の⽅針としても推進されています。
忙しい環境で働く⽅ほど、職場に報告しにくい、休むと同僚に迷惑がかかるため退職せざるを得ない、と考えがちです。しかし企業等も考え⽅が変わってきています。担当業務の変更や異動などで負荷を減らしたり、治療が軌道に乗るまで⼀時的に休職しやすくするなど、支援してくれるケースが多くなっています。
一般的に治療が長くなるほどお⾦がかかります。その後の生活や生計まで考えると、退職で収入を失うのはできるだけ避けたいところです。客観的に最善の判断ができるよう、自分だけで調べたり考えたりせず、「がん相談支援センター」などに相談しましょう。
誰でも、何でも、聞ける。「がん相談支援センター」。
これまで述べてきたように、がんになると病気や治療のことだけでなく、生活や仕事のことなど、様々なことを考え、決断していかなければなりません。相談先として、全国に408カ所ある「がん診療連携拠点病院」に「がん相談支援センター」が開設されており、済⽣会熊本病院もその1つです。看護師、ソーシャルワーカーなど専門の相談員が対応しています。治療からお金のこと、働き方など、がん治療に必要なあらゆるサポートができる体制を整えています。また当院の患者さんはもちろん、他院の患者さん、ご家族、関係者など、誰でもご利用いただけます。
がんについて困ったとき、がん相談支援センターをぜひご利用ください。
- 相談は無料です
- 当日受付も可能です(事前予約が優先)
- 電話での相談も可能です
がん相談支援センターの相談例
検査・治療・副作用
- 自分のがんや治療について詳しく知りたい
- セカンドオピニオンを受けるにはどうしたらいい?
- 副作用で困っている
経済的負担や支援について
- 活用できる制度、福祉サービスを知りたい
- 家事や生活のことで困っている
- 医療費が負担できるか心配
医療者とのコミュニケーション
- 担当医の説明が難しい
- こんな疑問を聞いて良いのだろうか
- 何を聞けばよいか分からない
社会との関わり
- 病気について、職場や学校にどう伝えたらいい?
- 仕事を続けながら治療はできる?
患者さんや家族の心のこと
- 気持ちが落ち込んでつらい
- 不安な気持ちを聞いて欲しい
療養生活の過ごし方
- できるだけ自宅で生活したい
- 副作用がつらい時に入院したい
緩和ケア
- 緩和ケアってなに?
- 地域で緩和ケアを受けられる病院はあるか
- 治療を続けながら緩和ケアを受けるにはどうしたらいい?
がん相談支援センター
TEL:096-241-0275(直通)
受付時間:8:30〜17:00(土曜、日曜、祝祭日、年末年始を除く)
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