脳卒中治療のエキスパートが解説する「脳卒中のいま」
当院脳卒中センター特別顧問である、橋本洋一郎医師に「脳卒中とその現状」についてお話を伺いました。
橋本医師は日本脳卒中学会の理事や日本脳卒中協会の常務理事、日本脳卒中医療ケア従事者連合の監事などを務め、これまでに熊本脳卒中地域連携ネットワーク研究会(K-STREAM)の創設・構築、わが国の脳卒中センターの提唱・制度設計・認定など、熊本だけでなく日本の脳卒中治療の普及と啓発に尽力。脳卒中治療の第一人者である他にも、頭痛、てんかん、認知症、不眠症、禁煙、リハビリテーション、医療連携などにも精通しています。
脳卒中の現状を教えてください
脳卒中データバンクの過去 20年間の解析では脳卒中3タイプ(脳梗塞、脳内出血、くも膜下出血)のすべてにおいて発症する年齢が高齢化し、発症時の重症度が軽症化しています。※若い頃から禁煙・節酒、運動、食事、適正体重維持などの生活週間の修正を行い、さらに高血圧、糖尿病、脂質異常症、心房細動などわかった時点で適切な治療を受けるようになっているため、高齢化・軽症化していると考えられます。しかし、今後も脳卒中は増加していくと予想されています。
また、脳梗塞発症後の経過は以前に比べて改善してきています。改善している理由としてrt-PA静注療法や機械的血栓回収療法によるものと報告されています。
脳卒中は高齢者に多い疾患ですが、若い方にも起こることもあり、特に心房細動などの心疾患が原因で起こる心原性脳塞栓症は1回の発作で寝たきりになったり、亡くなられることもあります。脳卒中は、早期対応が非常に大切な病気です。特に予兆にいち早く気づき、24時間以内に治療開始できるかが大切なポイントとなります。
※JAMA Neurology 79: 61-69, 2022より
脳卒中治療における当院の役割を教えてください
当院では脳卒中の患者さんが救急搬送されてきた場合、脳神経外科と脳神経内科の医師が24時間対応し、頭部 CTや MRIを含めた各種の検査を行い、内科的治療、外科的治療、血管内治療(カテーテルによる治療)を適切に行っています。
特に脳梗塞に対しては rt-PA静注療法や機械的血栓回収療法によって治せる、あるいは症状を軽減できる時代になっているため、これらの治療ををスムーズに行えるようにする必要があります。救急隊から連絡があり、これらの治療を行う可能性がある場合には「code stroke(コード・ストローク)」※が発令されて対応しています。これらの治療ができない施設からの緊急の依頼にも対応しています。
※緊急対応の用語
脳卒中を疑う症状、疑った場合の対応は?
脳卒中、特に脳梗塞ではrt-PA静注療法や機械的血栓回収療法をできだけ早く行う必要があります。脳卒中は突然起こり、脳卒中診療は「専門性」と「時間との戦い」の両立が必要ですので、できるだけ早く専門病院を受診していただく必要があります。そのためには脳卒中の症状を理解しておく必要があります。以下の5つの症状が急に起こった場合は脳卒中を疑います。
脳卒中の5つの症状
- 1. 急な半身の脱力・しびれ
- 急に顔の半分、片方の手足がしびれる、動かない
- 2.急な意識障害・言語障害
- 突然意識がおかしくなる、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない
- 3. 急な視力障害
- 急に片方あるいは両方の目が見えにくくなる、視野が狭くなる
- 4. 急なめまい・ふらつき・歩行障害
- 突然のめまい、力はあるのにバランスがとれず立てない、歩けない、手足がうまく動かせない
- 5. 突然の激しい頭痛
- 原因不明の突然の激しい頭痛
早期受診が重要なため「Act FAST (顔・腕・言葉ですぐ受診)」キャンペーンが行われています。すなわち脳卒中を疑ったら「Face(顔)・Arm(腕)・Speech(言葉)」をチェックして1つでも異常があったらTime(時間)が重要です。救急車を呼ぶか、専門病院をすぐ受診しましょうというキャンペーンです。
- FACE(顔)
- 口元や目元など顔の片側が下がったようにゆがむ。
うまく笑えない。 - ARMS(腕)
- 両手をあげても、片方の腕だけ力が入らず、落ちてしまう。
※はっきりしない場合には、両方の手のひらを上に向けた状態で上に挙げさせ、手のひらが下向きに回ったり、腕が自然に下がったりしないかを確認 - SPEECH(言葉)
- 簡単な文章「今日は天気が良い」、「ラリルレロ」、「瑠璃(ルリ)も玻璃(ハリ)も照らせば光る」、「生き字引」ときちんと言えない。言葉が出てこない。ろれつが回らない。
- TIME(時間)
- 上記3つのサイン(顔・腕・言葉)のうちで1つでも当てはまれば、一刻も早く119番(救急車を呼ぶ)へ連絡か,すぐに救急病院へ!」
“顔・腕・言葉で、すぐ受診”
注意しなければならない頭痛とは?
頭痛はありふれた症状で、アイスクリームを食べることや、飲酒でも起こります。一方で、初期の診断・治療が迅速かつ適切に行なわれなければ重篤な状態に陥る二次性頭痛もあります。367種類の頭痛があると言われています。繰り返し起こっている頭痛であれば、片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などの一次性頭痛を考えます。
「増悪(悪化)している頭痛」、「突発する激しい頭痛(雷鳴頭痛)」や「今まで経験したことのない頭痛、今まで最悪の頭痛」の場合は赤信号の頭痛(危険な頭痛)の可能性が高いと考えます。
特に突然、原因不明の激しい頭痛が起こった場合にはまず「くも膜下出血」を疑います。頭痛の原因の中で見落とすと命に関わるので一番注意しなければならないのがくも膜下出血です。
雷鳴頭痛(突然発症で痛みの強さのピークが1分以内に達し、5分以上持続する重度の頭痛)の場合には、まずくも膜下出血を疑います。ただし頭痛が軽い場合や、頭痛のないくも膜下出血もあるため、雷鳴頭痛でなければ大丈夫という訳ではありませんが、いつもと違う頭痛が突然起こった場合にはくも膜下出血の否定が必要と考えられます。
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