仕事、子育て、心の病・・・。片頭痛がもたらすマイナスを徹底的になくしたい。
長年、頭痛診療に取り組んできた橋本洋一郎医師に、偏頭痛を持つ方に知ってほしいことや、これまで関わった患者さんとのエピソードなどを伺いました。
片頭痛は病院で治せることを知ってほしい。
最初に結論を言うと、片頭痛の最大の問題は「きちんと片頭痛の治療をしていない人が多い」ことです。片頭痛や重度の頭痛を経験した人のうち、受診経験があるのは57.4%※。逆に言うと約4割が受診せず放ったらかしにしているのです。どうして治療しないかを辿ると、「病院へ行くほどのことじゃない」と甘く見ているか、「病院へ行っても意味がない」と諦めているか。前者は意識の問題ですが、後者は以前に病院に相談しても改善を感じなかった人だと推測されます。
少なくとも現在は、病院で処方する薬には片頭痛に効くものがいくつもあります。だから病院へ行く意味はあります。痛みを取る薬(頓座薬)と、定期的にやってくる痛みを事前に防ぐ薬(予防薬)に、生活習慣の改善などを合わせながら治療していきます。医師によっては「効く薬はありますが、妊婦に薬は使えないんです」など、患者さんによって薬を出さなかったり弱めるケースもあるようですが、私の知る限り、子どもや妊婦、授乳中でも使えて効く薬はあります。
頭痛で寝込んでしまうと、健全な子育てや仕事は難しいので、薬に頼れるところは頼るべきです。
- 出典:Curr Med Res Opin 37:1945-1955,2021
人生の半分が片頭痛という人も。
片頭痛は一度発症すると、痛みが4~72時間ほど続きます。女性は週1回ペースでなる人も多く、人生の半分は頭が痛いことになります。実際に「小学校高学年から60年片頭痛と付き合っています」という方に、先述の「抗CGRP抗体」を注射したら嘘のように痛みが消えて、「私の60年間は何だったんでしょう」とおっしゃっていました。
でもどんな薬も、なかなか効かない人もいます。なぜだろう?とよく話を聞くと、ほとんど寝ていないとか、職場で強いストレスがあるとか。そういった特別な要因には薬は勝てません。全てを薬で解決するのは難しいです。
仕事にも、子育てにも支障が出ないようにしたい。
ある調査では、片頭痛を理由に子作りを諦める女性が約2割いるそうです。「自分だけでも片頭痛で辛いのに子育てなど無理」、「自分が片頭痛であることで子どもにも悪影響を及ぼす」などと考えるようです。片頭痛は少子化の一因でもあるんです。
私の頭痛治療の第一目標は、片頭痛を理由に仕事を休まない、子育てを諦めない、ということ。そしてもうひとつ上の第二目標は、仕事や子育ての質を落とさないこと。出社はできるけど通常モードのパフォーマンスが出ない、ではなく、完全に通常と変わらないレベルにしたい。片頭痛による社会損失が年間で数千億S2兆円に上るという試算もあり、解決できれば日本経済にも良い効果があるはずです。
片頭痛は鬱も併発しやすい。
さらに、片頭痛はその痛みや長さなどから鬱も併発しやすくなっています。私は治療にあたって、片頭痛に関わる過去の経緯までヒアリングしますが、そのプロセスで泣き出したり、「死にたいと思ったことがある」といった話が出てくることがあります。あるめまいを伴う片頭痛患者さんは、耳鼻科で原因不明、脳外科でMRーを撮っても原因不明、今度は乗り物酔いがひどくなり3駅も乗れなくなって、結局仕事をやめて相談に来られました。片頭痛患者さんは調子が悪い時は病院にも行けないので、病院に来られるのは調子が良い時です。だから見た目は元気。それで診察を受けて、原因不明です、気持ちの問題です、で終わってしまい、なかなか医師が拾い上げてくれない。そうしているうちに鬱になっていく。
片頭痛はすぐに治すことはできませんが、飲み薬や注射が効いて、そこから人生が変わる人がたくさんいます。諦めず相談してください。
片頭痛のサイクル
お話を聞いた先生
脳卒中センター特別顧問
総合腫瘍科 がん先端医療推進部長
橋本洋一郎 Yoichiro Hashimoto
神社仏閣、城、温泉めぐりをこよなく愛する。
読書は瀬戸内寂聴著『源氏物語』と、『鬼滅の刃』を通読中。
関連記事 あきらめないで!片頭痛 を読む
- 要注意!後遺症や命に関わる場合も!
- 片頭痛は、最も忙しい世代の女性に多い!
- 片頭痛の“トリガー”は、多種多様!
- 頭痛薬の飲み過ぎも、頭痛になる!
- 実は3年前から、片頭痛の特効薬が登場!
本件に関するお問い合わせはこちら
患者さん
医療機関から
関連情報