1.パスは治療の設計図
家を建てる時に設計図が無ければ、どんな家になるか心配ですね。大工の棟梁だけがわかっていてあとはみな命ぜられるままに仕事をする。50年ほど前は医療も似たようなもので、主治医の頭だけに設計図が入っていて、他のスタッフは皆、言われるがままに仕事をしていました。医師の頭の中をのぞくわけにはいきませんので、不思議に思っても聞いたりできません。もちろん患者さんや家族もほとんど内容を知らないので「お任せします」としか言えないし、尋ねるのも勇気が要りました。今、考えればおかしなことですが。
最初のパスは検査やレントゲン、点滴の予定や食事開始、シャワー、リハビリなどの時期が絵文字で書いてある、いわゆる患者さん用パス(下図)でした。これだけでも入院生活がある程度イメージできました。ほとんどの患者さんは入院が初めてです。百戦錬磨の患者さんはいないのです。多くの患者さんの不安は治療そのものより、自分の生活がどのように続けられるのか、いつになったら家庭に帰れ、いつになったら会社へ行けるのか、お世話しなければならない家族やペットがどうなるのかなどに大きな不安があります。これにこたえるのがパスであり、治療の工程表あるいは目安が示されます。
このパスに加えて、痛みはどの程度で、食事はどの程度食べられて、発熱はどの程度なら問題ないか、など標準的な経過をたどる患者さんの状態が具体的な数値で目標として定められたものが医療者用パスと言われるものです。医師も看護師もこの目標値を目安にして患者さんを診ていきます。もちろんこの数値は過去の経験から設定していますが、たくさんのデータを集めればさらに精度が上がる仕組みです。
また、現代の医療では多くの医療職が加わってチーム医療、つまり共同作業が行われます。リハビリはいつ開始し、栄養指導はいつ頃行い、服薬指導はいつなど、各職種が効率よくかかわって仕事・タスクを行うにはパスは必須です。