6 でたらどうするバリアンス
バリアンスをネガティブに捉える必要はありません。親の仇のようにバリアンスを無くしてしまおうと考えるのも意味がありません。バリアンスは医療プロセスの途中に現れた「標準からの偏移」、つまり「通常のコースから少し外れつつありますよ」というサインを出してくれているわけで、ありがたい情報でもあります。そもそもアウトカムが設定されたパスが無ければ、どこで何が起こっているのかさえ分かりません。
バリアンスは異常を早めに知らせるサインなので、起こってもほとんど経過観察、つまり「注意深く診ましょう」となります。バリアンスの起こり方はアウトカムの設定の仕方によっても変わります。例えば「発熱がない」と言うアウトカムに観察項目の判断基準{体温<37.2℃}とするか{体温<37.5℃}とするかで変わってきます。前者ではバリアンス発生が多くなり後者では少なくなります。この基準値は多くの症例数を検討して適切な値を設定します。パス作成を始めた頃は慎重に進めていたので、観察項目も多く基準値も厳しめでした。バリアンス分析を行ってパスの改訂を進めると、パスはシンプルになり基準値も妥当なところに落ち着きます。
バリアンスが起こったら何らかのサインあるいは前兆ですので、まずは患者さんの状態を観察し、症状の有無を尋ね、血圧や体温などのバイタルをチェックします。この時、すでに明らかに様子がおかしければ応援を呼び、医師に連絡します。こうした緊急性のある状態は稀ですが、起こったら重大な結果をもたらすという意味で、対処の手順と連絡の順序を定めておくと安全です。
手術系のパスでのバリアンス発生は当日と1日目で70%、2日目までに80%で、ほとんど最初の3日までで主要なバリアンスは終わります。これが通常の経過なので、どういうバリアンスがいつ頃どの程度起こるということがわかれば、それに応じたアウトカムをパスに設定します。術当日は発熱、疼痛、嘔吐・嘔気などの消化器症状、創出血、ドレーン排液異常、血圧変動など観察項目も多く多忙です。疼痛管理がうまくいかないと患者の満足度も低下し、看護師もより忙しくなります。
バリアンスはさまざまありますが実際に起こっている内容の多くは疼痛や発熱などで、こうしたバリアンスの対処法を標準的に確立しておけば、ほとんどのケースで安全にしかも迅速に対応可能です。例えばNRSが5以上だったらこういう鎮痛剤と決めておけば、医師の指示を待たずに治療を開始できます。しかし、みんなが標準的な対処をせずにいつもバラバラなら治療の質は上がりません。ここで重要なことはバリアンスが出たら必ず記録を書くというルールです。これにより自分たちの治療が本当に適切だったかを確かめることができます。次回は記録について詳しく述べたいと思います。