7 バリアンス記録が命です!
前回はバリアンスが出たときにはどうするかを述べました。痛みがNRSの5だったら許容範囲である3以下を明らかに超えているのでバリアンスと判定します。痛みの訴えは患者さんの主観的な情報なのでバリアンス記録のSOAPのS(subjective)に記載し、その程度だけでなく部位、性質を記載します。そのほか咳をしているかや体温、血圧、創部の状態などを観察します。ここは客観的な情報なのでO(objective)にあたります。加えて追加的な情報、例えば検査や画像の結果があれば記載します。以上の情報から考えられる痛みの原因を評価してA(assessment)に、例えば「創部の感染が疑われる」や「肺炎疑い」などを記載します。最後に治療プランとしてP(plan)に「白血球とCRPの検査追加」あるいは「胸写の追加」、そして医師の指示である「抗生剤投与」などを記載します。
これでバリアンスが発生したときの一連の記録が完成します。上に挙げた例は比較的わかりやすいのですが、胸痛や頭痛、嘔吐などは少し複雑で、重要な合併症を早く見つけるためにも必要な情報を素早く取り、正確に記載する臨床能力が求められます。
バリアンス発生時の記録は通常はこれで終わりですが、電子パスではこれに加えてこのプランが有効だったかどうかの結果R(result)を記載します。これは一連のプロセスが適切に行われたか、処置や投薬などのプランがうまくいったかどうかの最終評価になります。こうしたデータが蓄積されると、あるバリアンスが出たときにやるべき検査や処置のおすすめを示すことができます。ビッグデータになるとさらに深い解析ができ、治療精度の向上につながります。電子化時代の記録は紙の時代と異なり、いかに論理的で正確なデータを効率よく取得し、これを他のデータと結び付けることで様々な解析が可能になるような工夫が必要です。 こうしたデータはパス改定の時に極めて有用な情報を提供してくれます。電子化以前の当院のパス大会では医療者だけでなく事務も含めて、データ収集で苦労し、解析で苦労し、可視化で苦労するという大変手間ヒマかかる作業を強いられていました。いまやバリアンスデータは容易に収集され可視化ができるのでパス大会も楽になりました。われわれの本来するべき仕事はデータの解析とその解釈、現場へのフィードバックであり、このサイクルを広範に迅速に回すことで質を上げ負担を減らす価値ある医療が提供できます。巷ではさまざまなDXが取り組まれていますが、医療プロセスの改善こそがDXの本丸と言えます。