心不全パンデミックに備える 心不全の治療とケアを支えるチーム医療
心不全は、「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」です(2017年/厚生労働省)。
日本の心不全患者数は100万人を超え、今後も高齢化とともに心不全患者は増加すると予想され、社会的な影響も懸念されています。それに備えるために、患者さんが病気についてきちんと理解すること、最適な治療やサポートを受けること、再発を防止することが重要です。
当院では複数の職種で構成される”心不全チーム”をつくり、多くの心不全患者さんを支えています。心不全の現状と各職種の役割について循環器内科の兒玉先生、前田先生にお話を伺いました。
日本で、熊本で起きている心不全パンデミック
⼼臓や⾎管の病気は高齢になるほど患者数が多くなり、日本人の死因の第2位(90歳以上の死因では第1位)となっています。その中でも慢性心不全の患者数は1年に1万人のペースで増え続けており、日本では心不全患者の爆発的な増加を表す「心不全パンデミック」を迎えています。
熊本県内でも高齢者は増加傾向にあり、人口の3割を占めています。今後も高齢者(65歳以上)、特に後期高齢者(75歳以上)が増加する見込みで、県内でも心不全患者の増加が懸念されます。
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日本における新規発症心不全の推移
心不全を知る:予防と早期発見の重要性
心不全になると、病気の進行とともに息切れなどの症状や筋力の低下が進むため、予防と早期の治療が重要です。
心不全の原因となる心臓の病気(心筋梗塞、弁膜症など)は、生活習慣の悪化が原因で発症します。塩分や水分の摂りすぎに注意する、薬をきちんと内服する、過労に注意する、風邪をひかないようにするなど、正しい生活習慣を身につけることで、心不全の発症・悪化を予防することができます。
患者さんご本人やご家族、その他の援助者が心不全について理解して生活することで、長く元気に過ごすことが可能です。
心不全を支える:済生会熊本病院のサポートチーム
医師、看護師、理学療法士、薬剤師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど多職種で構成されたチームが、入院・外来を問わず、患者さんとそのご家族をサポートします。多職種で連携しながら、最適な治療法の提案や再入院を防止するための教育・指導・援助を行います。
その他、院内外の医療従事者に対する教育や啓発活動にも取り組んでいます。
心不全チーム
心不全チームの取り組み
心不全を専門とする看護師による支援
心不全チームには、心不全を専門とする看護師が複数名在籍しています(慢性疾患看護専門看護師:1名、心不全看護認定看護師:1名、心不全療養指導士;11名)。患者さんの不安や大切にしていること、生きがいなどに耳を傾け、自分らしい生活を送ることができるように支援します。
その他、院外での研修会・交流会を開催し、地域の心不全看護の質向上に努めています。
心臓リハビリテーション指導士を有する理学療法士による病状に合わせたリハビリ
心臓リハビリテーションを行うことで、体力向上、心不全症状の軽減、生活の質向上、再入院防止につながります。心臓リハビリテーションには血管を柔らかくする効果や体内の炎症・酸化を抑える効果、自律神経機能を改善する効果があり、運動や食事療法を行うより効果的です。
当院では、心臓リハビリテーション指導士を有する理学療法士が、入院翌日より病状にあわせた理学療法を開始します。入院前の家屋・生活の様子をふまえ、退院後の生活に必要な心臓リハビリテーションを計画・実施しています。
生活背景に応じた薬物療法の支援
心不全の治療に使われる薬には、再発を予防する効果や経過を良くする効果があります。当院では患者さん一人一人の病状に合わせたお薬を用いて治療を行います。服薬を継続いただけるよう生活背景に応じた服薬管理の工夫、薬剤のご説明を行い最適な薬物治療を実施・継続できるよう努めます。また、かかりつけの調剤薬局と連携し、服薬継続いただける環境を整えます。
自己判断で内服を中断すると病状が悪化する恐れがあるため、ご不明な点がありましたら、薬剤師もしくは主治医にお尋ねください。
管理栄養士による食事療法の支援
食事療法には、心不全患者さんによく見られるむくみ、食欲不振、呼吸苦などの症状を軽減する効果があります。また、適正な栄養を摂取することにより、生活習慣病や肥満、栄養状態の改善が見込めます。
管理栄養士による個別の栄養相談も行っており、患者さんやご家族の食事に関する不安軽減や、再入院防止につながるよう取り組んでいます。
退院後の生活にも適切な支援
当院では入院後早期から退院支援を行い、再入院防止に努めています。また、介護サービスが必要な患者さんについては、担当となるケアマネージャーとともにケアプランを作成し、退院後の生活を支援しています。
多職種カンファレンス・勉強会
カンファレンスでは患者さんの経過や、患者さんやご家族が抱えている様々な問題を多職種で共有しています。患者さんが心身ともに安定した療養生活を継続するための方法をチーム一丸となって患者さんおよびご家族と一緒に考えていきます。
“地域で診る”心不全
心不全は良くなったり、悪くなったりを繰り返しながら、徐々に悪化する病気です。再入院を防止するためには、地域の医療機関がそれぞれの役割を果たし、地域全体で患者さんを診ることが大切です。
当院の心不全チームには循環器内科の医師をはじめ、専門的な資格を持つスタッフ(慢性疾患看護専門看護師、慢性心不全看護認定看護師、認定理学療法士)が在籍しており、地域の医療機関を訪問して医療従事者への指導も行っています。
関連情報
お話を聞いた先生
循環器内科 医長
心不全・心臓リハビリテーション部門 / 構造的心疾患治療部門
兒玉 和久(こだま かずひさ)
循環器内科 医長
前田 美歌(まえだ みか)