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9 だんだん良くなるクリニカルパス

パスは一度作ったら終わりではありません。なぜなら今やってる医療がずっと最良最適ではないからです。新しい技術や薬剤が開発され、新しい考え方が導入され、そして患者さんや社会の医療に対する考え方も変わっていくので、治療の在り方も当然変わっていかなければなりません。昔は同じ治療でも個々の医師、医局、病院で独自のやり方、呼称があり、それを公開したり治療成績を比較したりするなどは殆どできませんでした。幕藩体制のようなもので、それぞれがそれぞれのやり方を踏襲し、かつそれが良いかどうかはあまり吟味されませんでした。

パスの最大の功績は情報の公開と質改善プロセスの確立にあると考えます。これにより患者と医療者の情報格差は埋まり、1990年代より良い医療を求めて医療界が動き始めたことで現場の医療は確実によくなっています。

ではどのようにしてパスが改善されるかをみていきましょう。

まずは治療のプロセスにおいてどこがうまくいかなかったのかのデータを集めます。例えば合併症の発生率や、標準的な退院日数を超える割合、費用が普通より多くかかった症例など、治療の最終アウトカムを調べて、うまくいった症例とうまくいかなかった症例のプロセスデータを比較します。この時に役に立つのがバリアンスのデータです。前にも述べたようにバリアンスはあらかじめ設定された標準的経過から逸脱した場合ですが、バリアンスが起こったからと言って必ずしも最終結果に悪い影響が出るわけではありません。しかしあるプロセスを改善すると最終結果に良い結果をもたらすクリティカルなものもあります。

疼痛管理は、患者の苦痛を和らげるだけでなく、医療者も楽になり、早くしっかり治ることにつながります。以前は痛みに無頓着な医師がいたり、患者も痛みはできるだけ薬を使わず我慢すべきだと言った誤った認識も多く、また痛みの評価も客観的でなかったのでデータ収集も困難でした。現在では痛みのスケールであるNRSを使って定量的に評価することでデータとして処理できます。NRSが3以下なら標準的ですが4を超えないように鎮痛剤で予防することは治療全体の質にかかわってきます。痛みが少ないことで患者のストレスも減り、体動を容易にし、食事も進み、筋肉の減少も防ぎます。また、どのような鎮痛剤がどのような痛みに効果があり、どういうタイミングで投与すると有用なのかなどがわかります。

パスの解析は100例程度集まったら統計学的にも有意な差が出やすいでしょう。痛みはどの科でも共通なので、良い方法を病院全体で共有することで疼痛管理が向上します。組織内部で共有する最も良い方法はパス大会を開いて皆で議論することです。次回はパス大会について触れてみたいと思います。

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